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ベトナムの通関・輸出入実務:HSコードと優遇関税

ベトナムの通関・輸出入実務:HSコードと優遇関税

ベトナムの通関は「HSコードとFTA」で勝負が決まる

ベトナムを製造・輸出拠点とする日系企業にとって、通関と関税の実務はコスト競争力に直結します。原材料・部品を輸入し、完成品を世界へ輸出するサプライチェーンでは、関税の負担と通関のスピードが利益とリードタイムを左右します。ベトナムは多数のFTA(自由貿易協定)を結ぶ「FTA大国」であり、これを使いこなせるかどうかで、同じ製品でも実効的な関税負担が大きく変わります。

本稿では、ベトナムの通関制度の基礎、HSコード分類と関税評価、FTA優遇関税と原産地証明、電子通関システムの実務、そして製造業に重要な輸出加工・保税の仕組みを整理します。

ベトナムの通関制度の基礎

ベトナムの通関は、2014年関税法(Customs Law 2014、法令番号54/2014/QH13)を基礎に運用されます。輸出入には、品目分類(HSコード)、課税価格(関税評価)、原産地(FTA適用の可否)という三つの要素が関わり、これらが正しく揃って初めて、適正かつ最速の通関が実現します。逆に、どれか一つの誤りが、追徴・通関遅延・優遇否認のいずれかを招きます。

輸出入の主な税目

輸入には輸入関税と輸入段階の付加価値税(VAT)が課されます。一部の品目(資源・環境負荷品など)には輸出関税や特別消費税も課されます。製造業では、原材料・部品の輸入関税と、完成品輸出時の扱い(後述の輸出加工・保税)の設計が、コスト構造の要になります。

通関実務の流れと要点

通関は、いくつかの要素を正しく積み上げる作業です。以下の各要点を、輸入のたびに整合させる必要があります。

ベトナムの通関実務:5つの要点
ベトナムの通関実務:5つの要点

HSコード分類

すべての貨物は、HSコード(品目分類番号)で特定されます。ベトナムはASEAN共通のAHTN(ASEAN統一関税品目表)を採用し、8桁で分類します。同じ製品でもコードの当て方一つで税率やFTA適用の可否、許認可の要否が変わるため、HSコードの確定は通関設計の出発点です。判断に迷う品目は、事前教示(advance ruling)の活用で、後の否認リスクを下げられます。

関税評価(課税価格)

関税は、原則としてWTO評価協定に基づく「取引価格」を課税価格として算定します。関連者間取引では、価格が独立企業間価格と整合しているかが問われ、移転価格の論点とも交差します。ロイヤルティや輸送費の加算要否など、課税価格の構成を誤ると追徴の対象となるため、インボイスと契約条件の整合が重要です。

FTA優遇関税と原産地証明

ベトナムは、CPTPP、EVFTA(EUとのFTA)、RCEP、ATIGA(ASEAN域内)、VJEPA・AJCEP(日本とのEPA)など、多数のFTAの当事国です。これらを使えば、対象品目の関税を大幅に、場合により無税まで引き下げられます。鍵となるのが原産地規則(rules of origin)の充足と、それを証明する原産地証明書(C/O:Form D、EUR.1、自己証明など各協定固有)です。原産地規則を満たさないまま優遇を申告すると、事後調査で否認・追徴を受けます。FTAの活用はサプライチェーン全体の設計と一体で考えるべきで、チャイナ・プラスワンの供給網再編とも密接に関わります。

電子通関(VNACCS/VCIS)

ベトナムの通関は、電子通関システムVNACCS/VCISを通じて申告します。申告内容に応じて、書類審査・現物検査の要否が「通関レーン」(グリーン=即時通関、イエロー=書類審査、レッド=現物検査)に区分されます。申告データの正確性と一貫性、過去のコンプライアンス実績が、検査頻度とリードタイムを左右します。

検査・許認可・専門管理

品目によっては、通関に加えて専門管理(品質検査・規格適合・植物検疫・各省の輸入許可など)が必要です。これらは通関と並行して進めないと、貨物が港で滞留しデマレージ(保管料)が発生します。条件付き品目の確認は、ベトナムの条件付き事業ライセンス制度の理解とも関わります。

製造業に重要な輸出加工・保税の仕組み

ベトナムを輸出拠点とする製造業にとって、関税負担を構造的に軽くする制度の理解は不可欠です。

輸出加工企業(EPE)

輸出加工企業(EPE:Export Processing Enterprise)は、輸出を目的に製造を行う企業で、輸入する原材料・設備に対する輸入関税・VATが原則免除されます。ベトナム国内市場との取引は「輸出入」として扱われる特殊なステータスで、輸出比率の高い製造業に適します。工業団地のなかにEPE専用区を設ける例も多く、立地選定と一体で検討します。

保税倉庫と加工貿易

保税倉庫(bonded warehouse)を使えば、輸入貨物を関税を留保したまま蔵置し、再輸出や加工に回せます。また、委託加工(加工貿易)として原材料を無税で輸入し、加工後に再輸出するスキームも、輸出型ビジネスのコスト最適化に有効です。これらは在庫・物流の設計と税務の双方に関わるため、サプライチェーンと税の両面から設計します。

現地調達(on-spot)と保税の組み合わせ

ベトナムには、国内の企業間でありながら輸出入として扱う「みなし輸出入(on-spot import-export)」の仕組みがあります。たとえば、EPEや保税企業がベトナム国内の取引先から部品を調達する場合、これを輸出入として処理することで、関税・VATの取扱いを最適化できます。輸出型の製造ネットワークでは、自社のEPEステータス、保税倉庫、みなし輸出入を組み合わせることで、原材料調達から完成品輸出までの関税負担を構造的に抑えられます。ただし手続きと証憑管理は煩雑になるため、制度の利点とオペレーション負荷を見比べて設計することが重要です。みなし輸出入では、双方の企業が対応する輸出入申告を正しく行い、突合できる証憑を残すことが、後の事後調査での否認を避ける前提になります。

通関でつまずきやすい論点と事後調査

通関は、申告時に通っても終わりではありません。税関は事後に申告内容を検証する権限を持ち、ここでの否認が後から大きな追徴につながります。

事後調査(PCA)への備え

ベトナム税関は、通関後に書類・取引実態を遡って検証する事後調査(post-clearance audit)を行います。対象になりやすいのは、HSコードの分類、関税評価(課税価格)の妥当性、FTA優遇の原産地要件の充足、減免税の適用根拠です。輸入から数年分が一括して調査され、否認されれば差額関税に加えてVAT・延滞利息が課されることもあります。インボイス・契約・送金・原産地証明・在庫記録を整合的に保管し、いつでも申告の根拠を説明できる状態を保つことが、最大の防御になります。

原産地規則の落とし穴

FTA優遇の否認で最も多いのが、原産地規則の理解不足です。原産地規則には、関税分類変更基準(CTC)、付加価値基準(域内付加価値率)、特定加工工程基準などがあり、協定・品目ごとに異なります。「ベトナムで組み立てたから原産」と短絡すると、実際には基準を満たさず、事後調査で優遇が否認される例が後を絶ちません。RCEPのように累積原産地を活用できる協定では、域内調達の設計で原産性を確保できる余地が広がるため、サプライチェーンの調達先選定の段階から原産地規則を意識することが重要です。

関連者間取引と移転価格の整合

グループ内で原材料・部品を融通する日系企業では、輸入時の関税評価額と、移転価格上の独立企業間価格が、整合している必要があります。関税は価格が高いほど税額が増え、法人税の移転価格は価格が高いほど現地利益が減る、という方向の異なる圧力が働くため、両者を別々に最適化しようとすると矛盾が生じます。通関と移転価格を一体で設計し、説明可能な価格根拠を持つことが、双方の調査リスクを下げる鍵です。詳しくはベトナムの移転価格税制を参照してください。

FTA活用の比較:イメージ

主要なFTAの特徴を、対象市場・日本企業の活用場面の観点で整理すると次のとおりです。実際の税率・原産地規則は協定・品目ごとに精緻に確認する必要があります。

完成品輸出時の実効関税の低減イメージ(FTA活用の有無)
完成品輸出時の実効関税の低減イメージ(FTA活用の有無)

FTA

主な対象市場

日系企業の活用場面

ATIGA

ASEAN域内

域内での部品・完成品の相互供給

CPTPP

日・加・豪・メキシコ等

環太平洋向け輸出の関税削減

EVFTA

EU

欧州向け輸出の段階的無税化

RCEP

日中韓・ASEAN等

アジア広域の累積原産地活用

VJEPA/AJCEP

日本

日越・日ASEAN間の関税優遇

日系企業が押さえるべき実務ポイント

第一に、HSコードの確定が通関設計のすべての起点です。コードを誤ると税率・FTA適用・許認可が連鎖的にずれるため、主要品目は事前教示も活用して固めるべきです。第二に、FTAは「使える状態にして初めて価値が出る」ものです。原産地規則を満たすサプライチェーン設計と、C/Oを含む証憑管理ができていなければ、協定があっても優遇は受けられません。第三に、輸出型の製造業はEPE・保税・加工貿易といった構造的な制度の活用で、関税負担を抜本的に下げられます。第四に、通関レーンの区分はコンプライアンス実績に左右されるため、申告の正確性を積み重ねることが、長期的なリードタイム短縮につながります。

ベトナムの通関・輸出入実務は、HSコード・関税評価・FTAという三つの要素を、サプライチェーン全体の設計と一体で最適化できるかが勝負どころです。Solara & Coは、品目分類とFTA活用の設計、EPE・保税スキームの検討、専門管理・許認可の整理までを、日越双方の貿易実務に通じたチームで支援します。御社のコスト競争力を一段引き上げる通関・関税の最適設計を、サプライチェーンの視点からご提案します。

FAQ

よくある質問

ベトナムの通関でHSコードはなぜ重要なのですか?

HSコード(品目分類番号)は、関税率・FTA適用の可否・許認可の要否をすべて決める起点だからです。ベトナムはASEAN共通のAHTN(統一関税品目表)を採用し8桁で分類します。同じ製品でもコードの当て方一つで税率や優遇の可否、専門管理の要否が変わり、誤れば追徴・通関遅延・優遇否認を招きます。判断に迷う主要品目は、事前教示(advance ruling)を活用して確定させるのが実務上有効です。

ベトナムのFTAを使うとどれくらい関税が下がりますか?

対象品目によりますが、CPTPP・EVFTA・RCEP・ATIGA・VJEPA/AJCEPなどを活用すれば、関税を大幅に、場合によっては無税まで引き下げられます。鍵は原産地規則(rules of origin)を満たし、原産地証明書(C/O:Form D、EUR.1、自己証明など)で証明することです。規則を満たさないまま優遇を申告すると事後調査で否認・追徴を受けるため、FTAはサプライチェーン設計と一体で活用する必要があります。

輸出加工企業(EPE)とは何ですか?

EPE(Export Processing Enterprise)は、輸出を目的に製造を行う企業で、輸入する原材料・設備にかかる輸入関税・VATが原則免除される特別なステータスです。ベトナム国内市場との取引は『輸出入』として扱われます。輸出比率の高い製造業に適し、工業団地内にEPE専用区を設ける例も多くあります。関税負担を構造的に下げられるため、立地・スキーム選定の段階で検討する価値があります。

ベトナムの電子通関の『通関レーン』とは何ですか?

ベトナムの通関は電子システムVNACCS/VCISで申告し、内容に応じて検査の度合いがレーンで区分されます。グリーンは即時通関、イエローは書類審査、レッドは現物検査です。どのレーンになるかは申告データの正確性・一貫性や過去のコンプライアンス実績に左右されます。正確な申告を積み重ねることで検査頻度が下がり、結果的に通関リードタイムの短縮につながります。

関税評価(課税価格)はどう決まりますか?

原則としてWTO評価協定に基づく『取引価格』を課税価格として算定します。ロイヤルティや輸送費の加算要否などで課税価格の構成が変わり、誤れば追徴の対象になります。とくに関連者間取引では、価格が独立企業間価格と整合しているかが問われ、移転価格の論点とも交差します。インボイス・契約条件・送金実態を整合させ、課税価格の妥当性を説明できる状態にしておくことが重要です。

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