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ベトナム企業法:会社形態とコーポレートガバナンス

ベトナム企業法:会社形態とコーポレートガバナンス

ベトナム企業法が会社の「器」と統治を決める

ベトナムで事業体を設立・運営する際の基本法が、2020年企業法(Law on Enterprises 2020、法令番号59/2020/QH14、2021年1月1日施行)です。投資法が外資参入の可否と投資登録を定めるのに対し、企業法は「どの会社形態を選ぶか」「誰がどの権限で会社を動かすか」という、会社の器とコーポレートガバナンスを規律します。進出形態の選択や合弁の設計、将来のM&A・上場を見据えるうえで、企業法の理解は欠かせません。

本稿では、主要な会社形態の特徴、機関設計(コーポレートガバナンス)、法定代表者をめぐる実務、そして2020年改正の主な変更点を、日系企業の意思決定に役立つ形で整理します。

ベトナムの主要な会社形態

企業法は複数の事業体類型を定めますが、外国投資家が実務で選ぶのはほぼ二つ、有限責任会社(LLC)と株式会社(JSC)です。

有限責任会社(LLC)— 一人社員と二人以上社員

有限責任会社(Công ty TNHH)は、出資者がその出資額を限度に責任を負う、最もシンプルで管理しやすい形態です。社員(出資者)の数で二つに分かれます。一人社員有限責任会社(単独出資)は、100%子会社を設立する日系企業の標準形です。二人以上社員有限責任会社は、社員数2〜50名で、合弁(ローカルパートナーとの共同出資)に向きます。持分の譲渡には他の社員の優先買取など一定の制約があり、閉鎖性が高いのが特徴です。

株式会社(JSC)

株式会社(Công ty Cổ phần)は、資本を株式に分割し、株主3名以上で設立する形態です。株式の自由な譲渡、種類株式の発行、社債発行、将来の証券取引所上場が可能で、機関投資家からの資金調達や事業拡大を見据える場合に適します。一方で、機関設計や株主総会の運営はLLCより重く、設立初期の小規模な子会社にはオーバースペックになりがちです。

その他の形態

このほか、合名会社(Partnership)、個人企業(Private enterprise)も定められていますが、外国投資家が利用する場面は限定的です。進出形態の選び方は、ベトナム進出のストラクチャー比較でも整理しています。

会社形態別の機関設計と意思決定構造のイメージ
会社形態別の機関設計と意思決定構造のイメージ

コーポレートガバナンス:機関設計の基本

会社形態ごとに、企業法が定める機関設計(意思決定と監督の仕組み)が異なります。ここを正しく設計しないと、親会社のコントロールが効かなかったり、重要決議が滞ったりするリスクが生じます。

一人社員有限責任会社の機関

一人社員LLCは、所有者(出資者)が会社員会または社長を通じて意思決定を行い、社長(Director/General Director)が日常業務を執行します。組織は簡素で、親会社の意思を反映しやすいのが利点です。法人が所有者の場合、複数名の代表者からなる社員総会を置く設計も可能です。

二人以上社員有限責任会社の機関

二人以上社員LLCは、最高意思決定機関である社員総会(Members' Council)、その議長、社長を置きます。社員総会の決議要件(出席・賛成の割合)は定款で定めますが、増資・定款変更・合併など重要事項には加重された多数決が求められます。合弁では、この決議要件と拒否権の設計が、パートナー間の力関係を決める核心になります。

株式会社の機関

株式会社は、株主総会(GMS)、取締役会(Board of Management、3〜11名)、社長を置き、監督機関として監査役会(Inspection Committee)を設けるのが基本型です。2020年企業法では、監査役会に代えて取締役会内に独立取締役と監査委員会を置く一層構造も選択でき、よりモダンなガバナンス設計が可能になりました。重要決議の定足数・賛成要件は法定され、定款で上乗せできます。

法定代表者をめぐる実務

ベトナムの会社には、会社を代表して法的行為を行う「法定代表者」(Legal Representative)が必須です。ここは日系企業が実務で最もつまずきやすい論点の一つです。

複数法定代表者と権限分配

2020年企業法は、会社が複数の法定代表者を置くことを認めています。ただし、少なくとも1名はベトナム国内に居住している必要があります。複数置く場合は、各代表者の権限範囲を定款で明確に定めないと、対外的には各代表者がフルの代表権を持つとみなされ、独断での契約・送金といったリスクが生じます。親会社のガバナンス上、誰にどこまでの権限を与えるかの設計が重要です。

印章(社印)と権限統制

ベトナムでは契約・申請に会社印(社印)の押印が広く用いられます。2020年企業法は、従来の警察への印章届出義務を撤廃し、会社が印章の様式・数を自ら決められるようにしました。自由度が増した反面、印章の管理が緩いと不正利用のリスクが高まるため、印章保管と押印承認のルールを社内規程で明確にすることが、子会社ガバナンスの要諦です。

2020年企業法の主な変更点

2020年企業法は、2014年法から実務に影響する複数の改正を行いました。

手続きの簡素化と少数株主保護

印章届出義務の撤廃に加え、企業登録手続きの電子化・簡素化が進みました。一方で、少数株主の保護は強化され、帳簿閲覧権や取締役選任における累積投票の活用、株主代表訴訟の枠組みなどが整理されています。合弁で少数側に立つ場合、これらの権利を定款と株主間契約でどう具体化するかが、ガバナンス設計の勘所になります。

国有企業・関連者取引の規律

国有企業の定義見直しや、関連者間取引の承認手続きの明確化も行われました。親会社・関連会社との取引(資金貸付・原材料供給・ロイヤルティ等)は、企業法上の承認プロセスと、税務上の移転価格規制の双方に整合させる必要があります。詳細はベトナムの移転価格税制を参照してください。

法定代表者・幹部の登記と変更

会社の法定代表者や主要な機関構成員は、企業登録(ERC)や当局への届出に反映されます。実務では、駐在員の交代や役員の改選のたびに、登記情報を速やかに更新することが求められます。登記上の代表者と実際に業務を執行する人物が乖離したまま放置すると、契約の有効性や対外的な責任関係が不明確になり、銀行手続きや当局対応で支障が生じます。人事異動と登記更新を連動させる運用ルールを社内に持つことが、ガバナンスの実効性を支えます。とりわけ法定代表者がベトナムを離任する際は、後任の選任と登記、銀行・税務の権限移管を切れ目なく行わないと、署名権者不在で日常業務が止まるリスクがあるため、駐在交代のスケジュールと登記手続きを早めに連動させておくことが肝要です。

資本金・出資と組織変更の実務

会社の器をめぐっては、資本金の考え方と、将来の組織変更の柔軟性も、設立段階で押さえておくべき論点です。

定款資本金と出資の払込

ベトナムの会社には、最低資本金の一般的な法定額はありません(一部の規制業種を除く)。ただし、定款に記載した「定款資本金(charter capital)」は、原則として企業登録から90日以内に全額払い込む必要があります。事業計画に見合わない過大な資本金を登記すると、払込義務がそのまま重い資金負担となり、逆に過少だと許認可や取引信用、増資手続きの面で不利になります。資本金は、初期投資・運転資金・将来の増資余地を踏まえ、現実的な水準で設計することが重要です。実際の払込・送金は直接投資資本口座(DICA)を通じて行います。

組織変更とイグジットの柔軟性

事業の成長に応じて、一人社員LLCから二人以上社員LLCへ、あるいはLLCから株式会社へと組織変更する道が企業法上用意されています。外部投資家を迎える、合弁を組む、将来の上場やM&Aによるイグジットを見据える、といった局面で、どの形態が変更しやすいかを設立時に意識しておくと、後の選択肢が広がります。とりわけ株式会社は、株式という標準化された持分を通じて出資の受け入れ・譲渡がしやすく、資本政策の自由度が高い点が、拡大局面での強みになります。撤退・清算まで含めた出口の設計は、ベトナムM&Aのイグジット・清算の論点とも一体で考えるべきです。

会社形態の選択:比較表

外国投資家が選ぶ主要形態を、設立要件・統治・資金調達・適する場面で整理すると次のとおりです。

会社形態別の主要要件の比較イメージ
会社形態別の主要要件の比較イメージ

項目

一人社員LLC

二人以上社員LLC

株式会社(JSC)

出資者数

1名

2〜50名

株主3名以上

主な用途

100%子会社

合弁

拡大・上場志向

最高機関

所有者/社員総会

社員総会

株主総会

持分譲渡

比較的自由

優先買取等の制約

原則自由

資金調達

増資中心

増資中心

株式・社債発行可

統治の重さ

軽い

中程度

重い

進出形態とガバナンス設計の実務ポイント

第一に、形態選択は「現時点の規模」だけでなく「3〜5年後の姿」で考えるべきです。当初は管理が容易な一人社員LLCで設立し、事業拡大や外部資本受け入れの段階で株式会社へ組織変更する、という道筋も現実的な選択肢です。第二に、合弁では決議要件・拒否権・デッドロック解消条項を定款と株主間契約で精緻に設計することが、後の紛争を防ぎます。第三に、法定代表者の権限と印章管理は、親会社が現地法人を統制する生命線であり、設立と同時に社内規程として固める必要があります。

ベトナム企業法は、会社という器の形と統治を決める基本法です。器の選択を誤ると、後の増資・合弁解消・M&A・上場のたびに重い組織変更を強いられます。Solara & Coは、進出形態の選定から定款・株主間契約の設計、機関設計とガバナンス体制の構築までを、日越双方の実務に精通したチームで一貫支援します。御社の中長期の事業計画に最適な「器」を、設立の入口から一緒に設計します。

FAQ

よくある質問

ベトナムで100%子会社を作るならどの会社形態がよいですか?

一般的には一人社員有限責任会社(一人社員LLC)が標準です。出資者が単独で、出資額を限度に責任を負い、機関設計が簡素で親会社の意思を反映しやすいためです。将来、外部資本の受け入れや上場、種類株式の発行を見据える場合は株式会社(JSC)を選ぶこともありますが、設立初期は管理が容易な一人社員LLCで始め、拡大段階で株式会社へ組織変更する道筋も現実的です。

有限責任会社(LLC)と株式会社(JSC)の主な違いは何ですか?

LLCは出資者(社員)が1〜50名で、持分譲渡に優先買取などの制約があり閉鎖的で、機関設計が軽いのが特徴です。JSCは株主3名以上で、株式の自由な譲渡・種類株式・社債発行・証券取引所上場が可能で資金調達手段が豊富ですが、株主総会・取締役会・監督機関の運営が重くなります。100%子会社や合弁はLLC、拡大・上場志向はJSCが目安です。

ベトナムの法定代表者は複数置けますか?

はい。2020年企業法は複数の法定代表者を認めています。ただし少なくとも1名はベトナム国内に居住している必要があります。複数置く場合、各代表者の権限範囲を定款で明確に定めないと、対外的には各代表者がフルの代表権を持つとみなされ、独断での契約・送金リスクが生じます。誰にどこまでの権限を与えるかの設計が、親会社のガバナンス上きわめて重要です。

会社印(社印)の届出は今も必要ですか?

2020年企業法で、従来の警察への印章届出義務は撤廃され、会社が印章の様式・数を自ら決められるようになりました。手続きは簡素になりましたが、その分、印章の管理が緩いと不正利用のリスクが高まります。印章の保管者・押印の承認フロー・使用記録を社内規程で明確にすることが、現地法人ガバナンスの要となります。

合弁で少数側に立つ場合、企業法上どう自社を守れますか?

2020年企業法は帳簿閲覧権、取締役選任での累積投票、株主代表訴訟など少数株主保護の枠組みを整理しています。実務では、これらの法定権利に加え、増資・定款変更・重要資産処分などの拒否権、デッドロック解消条項、持分譲渡制限を定款と株主間契約で具体化することが重要です。決議の定足数・賛成要件の設計が、パートナー間の力関係を左右します。

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