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ベトナム土地法2024:土地使用権と外資企業の留意点

ベトナム土地法2024:土地使用権と外資企業の留意点

ベトナム土地法2024が用地戦略の前提を変える

ベトナムで工場や物流拠点を構える日系企業にとって、土地は事業の物理的な基盤であると同時に、法制度の理解が最も問われる領域です。ベトナムには日本のような土地の私的所有が存在せず、企業が手にできるのは「土地使用権」(LUR:Land Use Rights)にとどまります。2024年土地法(Land Law 2024、法令番号31/2024/QH15)は、この土地使用権制度を約10年ぶりに大改正し、2024年8月1日に前倒し施行されました。用地取得・評価・補償のルールが変わり、進出の用地戦略の前提そのものが更新されています。

本稿では、ベトナムの土地制度の根本原則、土地使用権の取得形態、外資企業が用地を確保する実務、土地使用権証(LURC)の確認ポイント、そして2024年土地法の主な変更点を整理します。

ベトナムの土地制度の根本原則

ベトナム憲法と土地法は、土地を「全人民の所有に属し、国家が統一的に管理する」と定めています。つまり、誰も土地そのものを「所有」することはできず、国家から土地使用権の付与を受けて利用する仕組みです。この大原則を理解しないまま「土地を買う」という日本的な発想で進めると、権利の性質と期間制限を見誤ります。

土地使用権という権利の性質

土地使用権は、一定期間・一定目的のもとで土地を使用し、条件を満たせば譲渡・賃貸・抵当に供することができる財産的権利です。事業用地(工場・オフィス)は通常50年(特別な案件で最長70年)の期限付きで、期間満了時には延長の申請が必要です。残存年数は資産価値とファイナンスに直結するため、用地取得の最重要チェック項目です。

ベトナムの土地使用権制度の構造(全人民所有から外資の操業用地まで)
ベトナムの土地使用権制度の構造(全人民所有から外資の操業用地まで)

土地使用権の取得形態

国家が土地使用権を企業に与える形態は、大きく「割当」と「リース」に分かれ、対価の支払い方も異なります。

土地割当(giao đất)と土地リース(cho thuê đất)

土地割当は、一定の事業に対し使用権を付与する形態です。これに対し、外資企業(FDI企業)が事業用地を確保する標準的な形態は、国家からの土地リースです。リース料の支払い方法には、リース期間分を一括前払いする方式と、毎年支払う年払い方式があり、どちらを選ぶかで権利の処分可能性(譲渡・抵当の可否)やキャッシュフローが変わります。一般に一括前払いの方が、土地使用権の譲渡・抵当の自由度が高くなります。

工業団地・経済区でのサブリース

実務上、多くの日系製造業は、国家から直接リースを受けるのではなく、開発済みの工業団地(IZ)や経済区(EZ)の運営会社から区画をサブリースする形をとります。インフラが整備済みで、許認可の支援も受けられ、用地確保のスピードと確実性に優れるためです。サブリースでも、その土台にある工業団地全体の土地使用権の性質・残存年数・対価方式が、最終的に企業の権利の安定性を規定します。立地選定は、ベトナムの製造拠点移転や工場用地のデューデリジェンスと一体で検討すべきです。

土地使用権証(LURC)の確認ポイント

土地使用権の存在と内容を公的に証明する書面が、土地使用権証(LURC:いわゆる「レッドブック」)です。M&Aや用地取得のデューデリジェンスでは、ここを精査します。

名義・目的・期間・制限の確認

LURCでは、使用権者の名義、土地の用途(事業用・工業用など)、使用期間と残存年数、対価方式(割当か、一括前払いリースか、年払いリースか)、そして抵当権の設定状況を確認します。用途が事業計画と一致しているか、残存年数が投資回収期間をカバーするか、第三者の担保に供されていないかは、特に重要です。土地関連の権利を持つ企業を買収する場合、これらの確認はベトナムM&Aの法務デューデリジェンスの中核を成します。

用途変更と造成のリスク

取得した土地の用途を後から変更(例:農地から工業用地へ)するには、当局の許可と追加対価が必要で、時間もかかります。「安く取得できる土地」が用途変更を前提としている場合、その許可リスクと造成・補償の負担を織り込まないと、想定外のコストとスケジュール遅延を招きます。

2024年土地法の主な変更点

2024年土地法は、土地評価・補償・市場の透明化を軸に、実務に影響する複数の改正を行いました。

土地評価の見直し

従来の硬直的な「土地価格枠組み」を廃止し、市場実勢を反映した年次の土地価格表へと移行する方向が打ち出されました。これにより、補償額・リース料・土地関連税の算定基礎が市場価格に近づき、用地コストの予見可能性と透明性が高まる一方、地域によってはコスト上昇要因にもなり得ます。

補償・用地収用・移転の整備

土地収用(site clearance)に伴う補償・支援・再定住のルールが整理され、収用される住民・事業者の保護が強化されました。大型プロジェクトで用地造成を伴う場合、補償・住民合意のプロセスがスケジュールのクリティカルパスになりやすく、地方当局との連携が欠かせません。

外資・市場アクセスの明確化

外資企業の土地使用権の取得・処分に関するルールや、工業団地・経済区における用地供給の枠組みも整理が進みました。土地使用権の譲渡・抵当を活用したファイナンスの可否は、対価方式(前払いか年払いか)と密接に関わるため、資金調達計画と一体で設計する必要があります。

土地情報の透明化とデジタル化

2024年土地法は、土地データベースの整備と土地情報の公開・デジタル化の方向も打ち出しました。これが実装されれば、土地使用権の状況や計画情報の確認が容易になり、用地取得・デューデリジェンスの予見可能性が高まることが期待されます。一方で、移行期にはデータの整合や運用の地域差が残るため、当面はLURCの原本確認や所管当局への照会といった一次情報の確認を併用することが、実務上は確実です。制度の運用は地方ごとに差が出やすいため、進出先の省・市の実務動向を個別に確認する姿勢が欠かせません。土地評価や手続きの細目は、政令・通達や地方の実施規則で具体化される部分も多く、法律本文だけでは実務の全体像が見えない点にも注意が必要です。最新の下位法令と地方運用を踏まえて判断することが、用地リスクを抑える前提になります。同じ法律でも、ハノイ・ホーチミンといった大都市圏と地方省とでは、地価表の水準や手続きの運用速度に大きな差が生じるため、候補地ごとに条件を個別に確認し、横並びで比較することが、用地戦略の精度を高めます。

工業団地の選定と用地確保の実務

多くの日系製造業にとって、用地戦略は実質的に「どの工業団地を選ぶか」に帰着します。ここでの判断が、操業の安定性とコストを長く左右します。

工業団地を見極めるチェックポイント

工業団地を選ぶ際は、賃料や立地の良し悪しだけでなく、団地の土台にある土地使用権の性質を確認することが重要です。団地全体のリースが一括前払い型か年払い型か、残存年数はどれだけあるか、インフラ(電力・用水・排水処理・通信)の容量と信頼性は十分か、環境許可や消防の取得実績はあるか、そして団地運営会社の財務健全性と運営実績はどうか――これらは、サブリースを受ける企業の権利の安定性とコストに直結します。表面的な区画価格の安さだけで選ぶと、インフラの脆弱さや権利の不安定さという形で後から跳ね返ります。

LURCと用地のデューデリジェンス

用地を取得する、あるいは土地を持つ企業を買収する場合、土地使用権証(LURC)の精査に加え、土地に関する公的記録の照会、係争・抵当の有無、用途・建ぺい率などの計画適合性、収用・補償の履歴までを確認します。とくに、過去に補償・住民合意が不完全なまま造成された土地には、後日の係争リスクが潜むことがあります。用地のデューデリジェンスは、工場の建設・操業計画と一体で行い、土地の権利と物理的な使用可能性の両面を検証することが欠かせません。

土地使用権の取得形態:比較表

外資企業が取りうる主要な用地確保の形態を、権利の性質・対価・処分自由度・適する場面で整理すると次のとおりです。

用地確保形態別の特性イメージ
用地確保形態別の特性イメージ

形態

対価方式

譲渡・抵当

用地確保の速さ

適する場面

国家リース(一括前払い)

期間分一括

比較的自由

自社で大規模造成

国家リース(年払い)

毎年

制限あり

初期投資を抑える

工業団地サブリース

団地に支払

団地条件に従う

速い

標準的な製造拠点

用途変更前提の取得

個別

許可後

遅い

コスト重視・要許可

日系企業が押さえるべき実務ポイント

第一に、「土地は買えない、使用権を期限付きで得る」という大原則を出発点に、残存年数と投資回収期間の整合を必ず確認することです。第二に、対価方式(一括前払いか年払いか)の選択は、キャッシュフローだけでなく、将来の譲渡・抵当によるファイナンスの自由度まで左右するため、資金計画と一体で決めるべきです。第三に、LURCの名義・用途・期間・抵当・係争の確認は、用地取得とM&Aのデューデリジェンスの生命線です。第四に、2024年土地法による評価・補償ルールの変更は、用地コストの前提を更新しているため、過去の取得事例の数字をそのまま当てにせず、最新の地価表とリース条件で再計算することが重要です。

ベトナム土地法2024は、用地戦略の前提を市場実勢に引き寄せる大改正でした。土地という基盤の権利設計を誤ると、操業開始の遅延、想定外のコスト、ファイナンスの制約となって跳ね返ります。Solara & Coは、立地・用地形態の選定から、LURCの精査、工業団地との条件交渉、用地取得・M&Aのデューデリジェンスまでを、日越双方の実務に通じたチームで一貫支援します。御社の投資回収計画に最適な「土地の権利」の設計を、進出の入口からご提案します。

FAQ

よくある質問

ベトナムで土地は購入できますか?

できません。ベトナムでは土地は全人民の所有に属し国家が管理する、という大原則があり、私的な土地所有は存在しません。企業が得られるのは、一定期間・一定目的で土地を使用できる『土地使用権(LUR)』です。事業用地は通常50年(特別な案件で最長70年)の期限付きで、満了時には延長申請が必要です。残存年数が資産価値とファイナンスに直結するため、用地取得時の最重要チェック項目になります。

外資企業が工場用地を確保する標準的な方法は何ですか?

実務上は、開発済みの工業団地(IZ)や経済区(EZ)の運営会社から区画をサブリースする形が標準です。インフラ整備済みで許認可支援も受けられ、用地確保のスピードと確実性に優れるためです。国家から直接リースを受ける方法もあり、その場合は期間分を一括前払いする方式と年払い方式があり、譲渡・抵当の自由度やキャッシュフローが変わります。一般に一括前払いの方が処分の自由度が高くなります。

土地使用権証(LURC・レッドブック)では何を確認すべきですか?

使用権者の名義、土地の用途(事業用・工業用など)、使用期間と残存年数、対価方式(割当か一括前払いリースか年払いリースか)、抵当権の設定状況を確認します。用途が事業計画と一致しているか、残存年数が投資回収期間をカバーするか、第三者の担保に供されていないかが特に重要です。土地関連の権利を持つ企業の買収では、これらの確認が法務デューデリジェンスの中核になります。

2024年土地法で何が変わりましたか?

主な変更は三点です。第一に、硬直的な土地価格枠組みを廃止し、市場実勢を反映する年次の土地価格表へ移行する方向が示され、補償・リース料・土地関連税の算定が市場価格に近づきました。第二に、土地収用に伴う補償・支援・再定住のルールが整理され住民保護が強化されました。第三に、外資の土地使用権の取得・処分や工業団地の用地供給の枠組みが明確化されました。

取得した土地の用途は後から変更できますか?

可能ですが、当局の許可と追加対価が必要で、時間もかかります。たとえば農地を工業用地へ変更する場合、許可リスク、造成・補償の負担、スケジュール遅延を織り込む必要があります。『安く取得できる土地』が用途変更を前提としているケースでは、その許可が下りない、あるいは長期化するリスクが事業計画を直撃しかねないため、取得前に用途と造成条件を精査することが重要です。

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