「許可が下りるまで何カ月かかるのか」— 設立スケジュールの読み方
ベトナムに100%外資の現地法人(多くは有限責任会社=LLC)を設立する際、日本企業の経営層がまず気にするのは「いつから事業を始められるのか」というスケジュールです。ところが実務では、設立期間は審査の標準日数だけで決まるものではありません。本国側で用意する書類の領事認証や公証翻訳、業種に応じた外資規制の確認、オフィス住所の確保といった「申請前」の準備に、想像以上の時間がかかるからです。
ベトナムの会社設立は、投資法(Law on Investment 2020)と企業法(Law on Enterprises 2020)という2つの法律に基づき、大きく「IRC(投資登録証明書)の取得」→「ERC(企業登録証明書)の取得」→「設立後手続(post-licensing)」という三段構えで進みます。外資が関与する案件では、内資の会社設立と違ってIRCという投資許可の段階が一つ多く加わるのが特徴です。
本稿では、この三段階を事前準備(ステップ0)から営業開始まで、必要書類・主官庁・標準所要日数とともに実務目線で整理し、どこがボトルネックになりやすいか、全体としてどれくらいの期間を見込むべきかを解説します。
ステップ0:事前準備で設立の成否が決まる
設立の成否とスピードは、申請書を出す前の準備段階でほぼ決まります。ここを詰めずに走り出すと、IRC審査の途中で当局から補正を求められ、何度も差し戻されて時間を浪費します。
事業範囲とVSIC業種コードの確定
ベトナムでは、行おうとする事業を「ベトナム標準産業分類(VSIC)」の業種コードに正確に紐づけて申請します。商社的な売買、製造、ITサービス、コンサルティングなど、将来の展開も見据えてコードを過不足なく設定することが重要です。登録した事業範囲の外の活動は原則行えないため、狭すぎれば後で追加手続が必要になり、広すぎれば条件付き分野を巻き込んで審査が重くなります。
外資規制チェックと投資条件
業種ごとに外資の参入可否・出資比率の上限・付帯条件が異なります。WTO約束やCPTPPなどの国際協定、および国内法で外資が制限・禁止される「条件付き投資分野」に該当しないかを最初に確認します。流通・物流・教育・広告などは条件が付くことが多く、該当する場合は所管省庁との協議が必要となり、IRC審査が標準日数より大きく延びる要因になります。
オフィス住所と賃貸借契約
ベトナムでは、登記上の住所(事業所)が実在し、事業用途として使えることが設立の前提です。住居専用物件は法人登記に使えないことがあり、賃貸借契約書(またはオフィス利用の合意書)はIRC申請の添付書類になります。先に住所を確保しておかないと申請自体が進みません。
定款資本と出資計画
ベトナムでは多くの一般業種で法定の最低資本金は定められていませんが、申請する事業計画・人員・オフィス規模と整合した「無理のない定款資本(出資額)」を設定する必要があります。当局は資本金が事業計画に照らして妥当かを実質的に見るため、過小だと審査で説明を求められます。条件付き分野や一部業種では法定最低資本(法定資本)が課される点にも注意します。
ステップ1:IRC(投資登録証明書)の取得
外資が関与する設立では、最初に投資プロジェクトそのものの許可、すなわちIRCを取得します。これが事実上の「外資の参入許可」にあたります。
申請先と審査の流れ
申請先は、立地によって異なります。一般の市街地に設立する場合は各省・市の計画投資局(DPI)、工業団地・輸出加工区・ハイテクパークに入居する場合はその管理委員会(Industrial Zone Authority)が窓口です。提出された投資プロジェクトの内容・投資家の適格性・事業範囲・資本計画を当局が審査します。
必要書類と領事認証・公証翻訳
外国法人が投資家となる場合、本国の法人登記証明書、直近の財務諸表、出資能力を示す銀行残高証明などを提出します。これらの本国書類は、日本側で公証を受けたうえで領事認証またはアポスティーユ相当の手続を経て、さらにベトナム語への公証翻訳を付す必要があります。この認証・翻訳のプロセスが、実務上もっとも時間を読みにくい工程です。
標準15営業日と条件付き分野の延伸
書類が整っていれば、IRCの審査は標準で15営業日程度が一つの目安です。ただし前述の条件付き投資分野に該当する場合は、所管省庁への意見照会(当局協議)が入るため、数週間から月単位で延びることがあります。補正対応が発生すれば、その都度カウントがやり直しになる点も見込んでおくべきです。
ステップ2:ERC(企業登録証明書)の取得
IRCで投資プロジェクトの許可を得たら、次に「会社という法人格」を登録します。これがERCで、日本でいう設立登記に近い位置づけです。
法人格の付与と標準3営業日
ERCはDPIの企業登録窓口へ申請します。定款、社員(出資者)の情報、法定代表者、資本金などを登録し、書類が整っていれば標準で3営業日程度で発行されます。ERCに記載される企業コードが、そのまま税コード(納税者番号)として機能します。ここで初めて、会社が法的に成立します。
会社印章の作成
ERC取得後、会社の印章(社印)を作成します。現行制度では印章の形式・数量は会社が自ら決定でき、かつての公安への登録義務は緩和されていますが、定款や社内規程で印章の管理を定めておくことが実務上重要です。印章は契約・申請の各場面で必要になります。
主要ステップ・主官庁・所要日数の早見表
ここまでの流れを、主官庁・標準所要日数・主要な必要書類とともに整理します。日数はあくまで書類が整っている場合の目安で、認証・翻訳や条件付き分野の協議が入れば延びます。
手続ステップ | 主官庁 | 標準所要日数(目安) | 主要な必要書類 |
|---|---|---|---|
事前準備 | (社内・専門家) | 2〜4週間 | VSICコード確定、賃貸借契約、本国書類の認証・翻訳 |
IRC取得 | DPI/工業団地管理委員会 | 約15営業日 | 投資申請書、本国法人登記、財務諸表、銀行残高証明、住所証憑 |
ERC取得 | DPI(企業登録窓口) | 約3営業日 | 定款、出資者情報、法定代表者、IRC |
設立後登録 | 税務署・銀行・労働/社会保険当局 | 1〜3週間 | ERC、印章、口座開設書類、労働・社保登録 |

ステップ3:設立後手続(post-licensing)で初めて稼働できる
ERCで会社は成立しますが、実際に資金を動かし、人を雇い、請求書を出すには設立後の一連の登録が必要です。ここを軽視すると、設立はしたのに事業が始められないという事態になります。
税コード・電子インボイス登録
ERCの企業コードに基づき税務署で初期登録を行い、ベトナムで義務化されている電子インボイス(e-invoice)の利用登録・初期設定を進めます。これが整わないと、適法な請求・売上計上ができません。
DICA資本金口座の開設と出資の払込
外国投資家は、銀行で「直接投資資本口座(DICA/Direct Investment Capital Account)」を開設し、海外からの出資金はこの口座を通じて払い込みます。出資金は、原則としてERC(またはIRC)に定める期日までに、一般的には会社設立から90日以内に払い込む必要があります。期限内に払い込めない場合は、資本金の減額など登録内容の変更手続が必要となり、過少資本のまま放置すると是正リスクになります。送金の名目・証憑を正確に整えないと、後の配当送金や資本回収の局面で支障が出るため、最初の払込から記録を一貫させておくことが肝心です。
看板掲示・労働/社会保険・sub-license・銀行口座
登記住所には会社の看板(標識)を掲示する義務があります。従業員を雇用する場合は労働・社会保険の事業所登録を行い、就業規則の届出なども進めます。さらに、業種によっては営業に追加の許可(sub-license/条件付き事業のライセンス)が必要で、これが取れるまで実営業ができない業種もあります。あわせて、日常の決済に使う通常の事業用口座も開設します。

全体期間の目安とボトルネック
最後に、設立全体としてどれくらいの期間と費用を見込むべきか、そしてどこで時間を失いやすいかを整理します。
標準は4〜8週間、条件付き分野は2〜3カ月
書類が整い、業種に外資規制上の特段の制約がなければ、IRC・ERC・主要な設立後登録までを概ね4〜8週間程度で見込むのが一つの目安です。一方、条件付き投資分野で当局協議が入る場合や、本国書類の認証・翻訳に手間取る場合は、2〜3カ月、あるいはそれ以上を見込む必要があります。スケジュールは「審査日数」よりも「準備と認証」で決まる、と捉えるのが実務的です。
領事認証・翻訳というボトルネック
実務でもっとも遅延を生むのが、本国書類の公証・領事認証(アポスティーユ相当)と公証翻訳です。日本側の手続日程、書類の体裁不備による取り直し、翻訳の正確性などが重なると、ここだけで数週間を要します。設立を急ぐなら、ベトナム側の申請準備と並行して、最優先で本国書類の認証に着手すべきです。
住所要件と資本金の考え方
登記に使える事業用住所の確保は、申請の前提であり遅延要因にもなります。また資本金は「法定最低額がないから少額でよい」という発想は危険で、事業計画・ビザ/労働許可の取得・銀行や取引先からの信用まで含めて、無理のない水準を設計することが、後の増資や是正の手間を避ける近道です。
Solara & Coの一貫支援 — 準備から営業開始まで伴走する
ベトナムの現地法人設立は、IRC・ERCという二段階の許可と、その後の税・資本払込・労務・ライセンスという設立後手続が連なる、工程の多いプロセスです。つまずきやすいのは審査そのものではなく、事業範囲(VSICコード)の設計、外資規制の見極め、本国書類の認証・翻訳、住所と資本金の整合といった「申請前後の段取り」です。
Solara & Coは、日越双方に拠点と人的ネットワークを持ち、事業範囲と外資規制の事前診断から、IRC・ERC申請書類の作成と当局対応、DICA口座の開設・出資払込、税務・電子インボイス・労働社会保険・sub-licenseの設立後登録までを一貫して支援します。「いつ事業を始められるか」を逆算し、認証・翻訳のボトルネックを先回りして、最短で確実な立ち上げをご一緒します。



