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ベトナムの労働法:採用・解雇・就業規則の実務ポイント

ベトナムの労働法:採用・解雇・就業規則の実務ポイント

ベトナムの労働法は「労働者保護」が基調

ベトナムに現地法人を設立した日系企業が、税務や許認可と並んで必ず直面するのが労働法(Labour Code)の実務です。ベトナムの労働法は、社会主義国らしく労働者保護の色彩が強く、日本の労働法とは「解雇のしやすさ」「契約の更新ルール」「就業規則の届出義務」などで大きく異なります。「日本と同じ感覚で従業員を採用し、問題があれば辞めてもらえばよい」という発想のままでは、不当解雇による補償や行政罰、労働紛争という形でつまずきます。

現行法は2019年労働法(No. 45/2019/QH14)で、2021年1月1日に施行されました。労働契約の類型の簡素化、試用期間の上限明確化、定年年齢の段階的引き上げ、ハラスメント規制の導入など、実務に直結する改正が多く含まれています。本稿では、採用(労働契約・試用期間)、賃金・労働時間、解雇・退職手当、就業規則という4つの柱を中心に、日系企業が押さえるべき実務ポイントを整理します。

採用と労働契約の基本ルール

ベトナムの労働契約は、2021年の新法で「無期労働契約」と「有期労働契約(36か月以内)」の2類型に簡素化されました(旧法にあった「季節労働契約」は廃止)。

有期契約は「更新は原則1回」

最も注意すべきは、有期契約の更新ルールです。有期労働契約は原則1回しか更新できず、契約期間が満了して引き続き雇用する場合、2回目以降は自動的に無期労働契約とみなされます。日本のように有期契約を繰り返し更新して雇用調整の余地を残す、という運用はできません。雇用の柔軟性を確保したい場合は、契約類型の設計を採用時点から検討する必要があります。

試用期間の上限

試用期間は職種ごとに上限が定められています。企業の管理者(法定代表者・部門長等)は最長180日、大学・短大卒の資格を要する職種は60日、専門・中級資格を要する職種は30日、それ以外は6日が上限です。試用期間中の賃金は、本採用後の賃金の85%以上でなければなりません。試用は1職種につき1回が原則で、複数回繰り返すことはできません。

職種別の試用期間の上限(日数・イメージ)
職種別の試用期間の上限(日数・イメージ)

賃金と労働時間

賃金は地域別最低賃金を下回ることができません。ベトナムは全国を4つの地域(Region I〜IV)に区分し、ハノイ・ホーチミンの都市部(Region I)が最も高く、地方(Region IV)が最も低く設定されています。

ベトナムの地域別最低賃金(月額・イメージ)
ベトナムの地域別最低賃金(月額・イメージ)

最低賃金と社会保険の算定基礎

最低賃金は政府が随時改定し、近年は毎年のように引き上げられています。最低賃金は社会保険・労働組合費などの算定基礎にも影響するため、改定のたびに人件費全体が動きます。給与設計では、額面だけでなく社会保険の事業主負担(給与の20%超)を含めた総コストで見積もることが重要です。

労働時間と残業の上限

法定労働時間は週48時間が上限です。残業(時間外労働)には上限があり、原則として月40時間・年200時間まで、繊維・電子など一部業種で例外的に年300時間まで認められます。残業割増率は、平日150%、休日200%、祝日300%と高く設定されており、製造業では残業管理の巧拙が人件費を大きく左右します。加えて、夜間労働(22時〜翌6時)には別途30%以上の割増が上乗せされるため、シフト制の工場では割増の積み上がりに注意が必要です。年次有給休暇は勤続1年で最低12日、勤続年数に応じて加算され、ベトナムの祝日(旧正月テトを含む年11日前後)も有給で保障されます。テト前後は工場の稼働が大きく落ちるため、生産計画と人員配置に織り込んでおく必要があります。

解雇と退職手当

ベトナム労働法で日系企業が最も誤解しやすいのが、解雇(労働契約の終了)の難しさです。使用者が一方的に労働契約を解除できるのは、法律が列挙する事由に限られます。

一方的解除が認められる事由

使用者による一方的解除が認められるのは、労働者が再三の業務遂行義務違反を犯した場合、長期の病気・傷病、不可抗力による事業縮小、所定期間の無断欠勤などに限られます。「能力不足」「会社都合」を理由にした安易な解雇は不当解雇と判断されやすく、復職と未払賃金の支払い、補償を命じられるリスクがあります。解除には職種・契約に応じた事前通知(無期45日・有期30日・短期3営業日など)が必要です。

退職手当と失業手当

自己都合・会社都合での契約終了時には、勤続1年につき0.5か月分の退職手当(trợ cấp thôi việc)が原則発生します。ただし2009年以降の勤続期間は失業保険(UI)でカバーされるため、退職手当の対象は主に2009年以前の勤続分です。事業再編・人員整理による契約終了の場合は、勤続1年につき1か月分(最低2か月分)の失職手当が必要となり、整理解雇のコストは日本以上に重くなり得ます。さらに人員整理を行う際は、労働使用計画(労働再編計画)の作成、労働組合との協議、所轄当局への通知といった手続きを踏む必要があり、所定の手順を欠くと整理自体が無効と判断されます。撤退・縮小局面でこのコストと手続きを見誤ると、清算スケジュール全体が遅延するため、事業計画の段階から織り込んでおくことが重要です。

就業規則と社内規程

従業員10人以上を雇用する企業は、就業規則(nội quy lao động)を書面で作成し、所轄の労働当局に登録しなければなりません。登録された就業規則が、懲戒処分の根拠となります。

懲戒処分は就業規則が根拠

ベトナムでは、就業規則に明記されていない事由で従業員を懲戒処分することはできません。懲戒解雇を行うには、就業規則に該当事由を具体的に定め、労働組合の関与のもとで所定の手続き(懲戒会議の開催等)を踏む必要があります。就業規則が未整備、あるいは内容が曖昧なまま運用していると、いざ問題社員に対処しようとしても処分の根拠を欠き、対応できません。

労働組合と内部労働規程

ベトナムでは労働組合(公式にはベトナム労働総同盟の傘下)の設置が想定され、団体交渉や懲戒手続きで一定の役割を担います。就業規則のほか、賃金規程、評価制度、労働安全衛生規程などの内部規程を、現地法に整合した形で整備しておくことが、紛争予防と健全な労務管理の基盤になります。こうした労務基盤は、M&A後のPMIにおける人材リスクの管理とも直結します。

外国人労働者の雇用と労働許可証

駐在員や外国人専門職をベトナムで雇用するには、原則として労働許可証(ワークパーミット)の取得が必要です。発給を受けるには、対象ポジションがベトナム人で充足できないことの説明、学歴・職歴の証明(3年以上の実務経験や関連学位など)、健康診断、無犯罪証明といった要件を満たさなければなりません。

採用計画と在留手続きの一体管理

労働許可証は、ベトナム企業との雇用関係と職位を前提に発給され、有効期間は最長2年です。許可証を取得して初めて、それに対応する在留許可(テンポラリー・レジデンス・カード)や1年以上の労働契約に基づく社会保険加入が整います。労働許可・在留・社会保険・個人所得税は連動するため、駐在員の赴任は採用計画と在留手続きを一体で管理することが欠かせません。具体的な税・社会保険の扱いは、駐在員の個人所得税と社会保険の解説で詳述しています。

労働紛争の解決と予防

労働紛争が生じた場合、ベトナムでは労働調停人による調停、労働仲裁評議会、人民裁判所という段階的な解決手続きが用意されています。個別労働紛争の多くは、まず調停を経ることが求められます。

紛争を未然に防ぐ仕組み

紛争コストと時間を考えれば、訴訟に至る前の予防が何よりも重要です。明確で登録済みの就業規則、賃金・評価制度の透明性、懲戒手続きの適正な履践、そして労働組合との対話の枠組みが、紛争を未然に防ぐ基盤になります。とくに懲戒解雇は手続き違反一つで不当解雇と判断されるため、事実認定と手続きの記録を丁寧に残すことが、後の紛争で会社を守ります。

定年年齢の段階的引き上げ

2021年の新法は、定年年齢を段階的に引き上げる方針を打ち出しました。男性は2028年までに62歳、女性は2035年までに60歳へと、毎年数か月ずつ引き上げられます。高齢化を見据えた制度変更であり、退職・年金・後継者育成の計画に影響します。あわせて、職場におけるセクシュアルハラスメントの定義と防止義務、女性・年少労働者の保護規定なども2019年法で明確化されており、就業規則やハラスメント防止規程に反映させておくことが求められます。

日系企業が押さえるべき実務(比較表)

採用から退職までの主要論点を、日本との違いとともに整理すると次のとおりです。

論点

ベトナムの特徴

実務上の留意点

労働契約

無期・有期(36か月以内)の2類型

有期更新は原則1回、2回目は無期化

試用期間

職種別に6〜180日

試用給与は85%以上、原則1回

労働時間

週48時間、残業年200(300)時間

割増率が高く管理が重要

解雇

法定事由に限定

能力不足・会社都合は不当解雇リスク

就業規則

10人以上は登録必須

懲戒は就業規則が根拠

ベトナムの労働法は、採用の柔軟性が低く、解雇のハードルが高く、就業規則の整備が懲戒の前提になるという点で、日本以上に「入口と仕組みの設計」が重要です。Solara & Coは、労働契約・就業規則・賃金規程の整備から、解雇・人員整理の進め方、労働紛争への対応までを、日越双方の労務実務に通じた体制で支援します。現地法人設立や進出ストラクチャーの検討段階から労務設計を組み込むことが、後の紛争コストを抑える最善の方法です。採用・賃金・就業規則・解雇の各論点を一貫した方針で設計し、現地法に整合した文書として整備しておくことが、安定した事業運営の土台になります。

FAQ

よくある質問

ベトナムでは有期労働契約を何度でも更新できますか?

できません。2021年施行の新労働法では契約は無期・有期(36か月以内)の2類型に簡素化され、有期契約の更新は原則1回までです。契約満了後も引き続き雇用する場合、2回目以降は自動的に無期労働契約とみなされます。日本のように有期契約を反復更新して雇用調整の余地を残す運用はできないため、契約類型の設計を採用時点から検討する必要があります。

ベトナムで従業員を解雇するのは難しいですか?

はい。使用者が一方的に労働契約を解除できるのは、再三の業務遂行義務違反、長期の病気、不可抗力による事業縮小、無断欠勤など法律が列挙する事由に限られます。『能力不足』『会社都合』を理由にした安易な解雇は不当解雇とされやすく、復職・未払賃金・補償を命じられます。解除には職種・契約に応じた事前通知(無期45日・有期30日等)が必要です。

試用期間はどのくらい設定できますか?

職種別に上限があります。企業管理者は最長180日、大学・短大卒の資格を要する職種は60日、専門・中級資格を要する職種は30日、それ以外は6日です。試用期間中の賃金は本採用後の85%以上が必要で、1職種につき試用は原則1回、繰り返すことはできません。

就業規則の作成・届出は義務ですか?

従業員10人以上を雇用する企業は、就業規則(nội quy lao động)を書面で作成し所轄の労働当局に登録する義務があります。重要なのは、就業規則に明記されていない事由で従業員を懲戒処分できない点です。懲戒解雇には就業規則に該当事由を具体的に定め、労働組合の関与のもとで懲戒会議など所定手続きを踏む必要があります。

外国人をベトナムで雇用するには何が必要ですか?

原則として労働許可証(ワークパーミット)の取得が必要です。対象ポジションがベトナム人で充足できないことの説明、学歴・職歴の証明(実務経験や学位)、健康診断、無犯罪証明などの要件を満たす必要があります。有効期間は最長2年で、これに対応する在留許可や1年以上の労働契約に基づく社会保険加入が連動するため、採用計画と在留手続きを一体管理することが欠かせません。

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