ベトナム消費の主役へ躍り出るZ世代
ベトナムの消費市場で、いま最も注目すべき変化が、Z世代(おおむね1990年代後半から2010年代前半に生まれた世代)の台頭です。デジタルとともに育ち、SNSを情報の入口とし、世界とつながりながら消費するこの世代が、ベトナムの消費の主役へと躍り出ています。1億人を超える人口のなかで若年層が厚いベトナムでは、Z世代とそれに続くミレニアル世代が、消費トレンドを牽引する圧倒的なボリュームゾーンを形づくっています。日本のように高齢化が進む市場とは対照的に、ベトナムの消費市場は「若さ」そのものが構造的な強みであり、この若い世代の購買力は所得の上昇とともに今後さらに高まっていきます。
Z世代の消費は、上の世代とは異なる論理で動きます。価格や機能だけでなく、ブランドが何を体現しているか、SNSでどう語られているか、体験としてどう感じられるかを重視します。彼らの心をつかめるかどうかが、ベトナム市場での長期的なシェアを左右します。本稿では、ベトナムのZ世代消費者の特徴とデジタル消費の構造を読み解き、ソーシャルコマースやライブコマースの台頭、消費トレンドの変化、そして外資・日本企業がこの世代を捉えるための戦略と留意点を実務目線で解説します。
Z世代消費者の特徴
ベトナムのZ世代を理解することは、これからの消費市場を読み解く出発点です。彼らにはいくつかの際立った特徴があります。
デジタルネイティブとSNS起点の購買
Z世代は、生まれたときからインターネットとスマートフォンに囲まれて育った「デジタルネイティブ」です。彼らの購買行動は、SNSを起点とします。商品を知るのも、評判を確かめるのも、購入を決めるのも、SNSや動画プラットフォームの上で完結することが珍しくありません。インフルエンサーやKOL(キー・オピニオン・リーダー)の発信は、テレビCM以上に購買に影響を与えます。情報の流れが、企業から消費者への一方向ではなく、消費者同士の横のつながりで広がる点が、決定的な違いです。良い評判も悪い評判も瞬時に拡散するため、ブランドは一貫した品質と誠実なコミュニケーションを保たなければなりません。
ブランド価値と体験の重視
Z世代は、価格や機能だけでなく、ブランドが体現する価値観や世界観に共感して消費する傾向を強めています。環境への配慮、社会的なメッセージ、デザイン性、そして「自分らしさ」を表現できるか——こうした要素が、ブランド選択の重要な軸になります。同時に、モノの所有以上に、体験(コト消費)を重視します。カフェ、エンターテインメント、旅行、推し活といった体験への支出が、彼らの消費の大きな部分を占めます。
価格感度と「賢い消費」の両立
一方で、Z世代はブランド志向であると同時に、極めて価格に敏感で「賢い消費」を追求する世代でもあります。SNSやECで価格・レビューを瞬時に比較し、クーポンやキャンペーン、ライブコマースの限定価格を巧みに使いこなします。つまり彼らは、共感できるブランドには惜しまず支出する一方、納得感のない価格には厳しいという、一見矛盾する二面性を持ちます。ブランドは、価値の訴求と価格設計の両面で、この世代の目の肥えた判断に応えなければなりません。安さだけでも、ブランドイメージだけでも選ばれない——その難しさと面白さが、ベトナムのZ世代市場の本質です。
デジタル消費の構造 — ソーシャルコマースとライブコマース
ベトナムのデジタル消費を特徴づけるのが、ソーシャルコマースとライブコマースの爆発的な台頭です。SNSや動画プラットフォーム上で、コンテンツと購買が一体化し、「見て、楽しんで、その場で買う」という消費行動が定着しつつあります。

ベトナムのEコマース市場は、東南アジアでも有数の成長スピードで拡大を続けており、その牽引役がZ世代・ミレニアル世代です。スマートフォンを起点とした購買が当たり前になり、オンラインで買い物をする人口の比率も着実に高まっています。

とりわけ特徴的なのが、ECがSNS・動画と融合した「ソーシャルコマース」の存在感の大きさです。専用のECアプリだけでなく、SNSのフィードや動画配信が直接の購買チャネルとなり、コンテンツと購買の境界が消えつつあります。ライブコマースでは、配信者がリアルタイムで商品を紹介し、視聴者がコメントで質問し、その場で購入する——エンターテインメントと買い物が融合した体験が生まれています。Z世代にとって、買い物は単なる消費行動ではなく、コンテンツを楽しむ時間の一部なのです。この変化は、ブランドにとって、従来の店舗・広告中心のマーケティングから、コンテンツ・コミュニティ・インフルエンサーを軸としたデジタルマーケティングへの転換を迫ります。
モバイル決済とシームレスな購買体験
ソーシャルコマースを支えるのが、電子ウォレットやQRコード決済といったモバイル決済の普及です。SNSで商品を見つけ、その場でスマートフォンで決済し、配送まで完結する——このシームレスな購買体験が、衝動的な購買を後押しし、消費の頻度と総量を押し上げています。決済・物流・コンテンツが一体化したエコシステムが、ベトナムのデジタル消費の基盤を形づくっています。
Z世代が牽引する消費トレンド
Z世代の価値観は、具体的な消費トレンドとして現れています。主なトレンドを整理します。
トレンド | 内容 | 関連カテゴリー |
|---|---|---|
健康・ウェルネス志向 | 健康・美容・自己投資への支出 | 食品、化粧品、フィットネス |
体験・コト消費 | モノより体験を重視 | カフェ、旅行、娯楽、推し活 |
サステナビリティ | 環境・社会への配慮 | アパレル、日用品、食品 |
プレミアム化 | 価格より価値・品質を選好 | 化粧品、食品、家電 |
利便性・即時性 | デリバリー、クイックコマース | EC、外食、小売 |
これらのトレンドに共通するのは、「価格」だけでは説明できない消費の論理です。Z世代は、自分の価値観に合うもの、SNSで語る価値のあるもの、体験として満足できるものに、惜しみなく支出します。日本ブランドが強みとする品質・安全・信頼・デザインは、この世代の品質志向・プレミアム志向と相性がよく、適切に訴求できれば大きな共感を獲得できます。
日本企業がZ世代を捉えるための戦略
ベトナムのZ世代市場で成功するには、従来の発想からの転換が必要です。第一に、デジタル・SNSを中心としたマーケティングです。テレビCMや店頭中心の手法ではなく、SNS・動画・インフルエンサー・ライブコマースを軸とした、コンテンツ起点のアプローチが不可欠です。現地のKOLやコミュニティとの連携が、ブランドの認知と信頼を一気に広げます。ただし、インフルエンサーの起用は、フォロワー数だけでなく、そのコミュニティとの信頼関係やブランドとの親和性を見極めることが重要です。数字の大きさよりも、共感の深さが購買につながるからです。マイクロインフルエンサーやニッチなコミュニティの方が、特定のカテゴリーでは高い効果を生むこともあります。
第二に、現地化(ローカライズ)です。Z世代の感性、トレンド、ユーモア、価値観は、日本のそれとは異なります。本国の成功体験をそのまま持ち込むのではなく、現地のZ世代に響くメッセージ・デザイン・体験へと翻訳する力が問われます。第三に、ブランドストーリーの一貫性です。Z世代は、ブランドの言行不一致に敏感です。サステナビリティや社会的メッセージを掲げるなら、それを実態として裏づける誠実さが求められます。表面的なトレンドの後追いではなく、ブランドの核となる価値を、現地の文脈で一貫して伝えることが、長期の支持につながります。一過性の話題づくりで終わらせず、ファンとの継続的な関係を築けるかどうかが、Z世代市場での持続的な成長を左右します。
投資・参入にあたっての留意点
Z世代消費市場は魅力的ですが、留意すべき点もあります。第一に、トレンドの移り変わりの速さです。SNSを起点とするトレンドは生まれては消えるサイクルが速く、一過性のブームと構造的な変化を見分ける目が必要です。第二に、競争の激しさです。デジタル上では国内外のブランドが瞬時に比較され、評判が可視化されるため、商品力とブランド体験の質が、これまで以上に売上を左右します。第三に、消費者保護・広告・データに関わる規制です。デジタルマーケティングやEコマースをめぐる規制は整備の途上にあり、その動向を踏まえた対応が求められます。これらは、現地に根ざした市場調査と、信頼できるパートナーの選定によって乗り越える必要があります。
まとめ — 「価値と体験」で選ばれるブランドへ
ベトナムのZ世代は、デジタルとともに育ち、価格や機能だけでなく、ブランドの価値観と体験で消費を選ぶ新しい世代です。彼らがソーシャルコマース・ライブコマースを通じて消費の主役へと躍り出るなかで、ブランドに求められるのは、SNS・コンテンツ・インフルエンサーを軸としたデジタルマーケティングと、現地のZ世代に響く一貫したブランドストーリーです。日本ブランドの品質・信頼・デザインは、この世代の品質志向と相性がよく、適切に訴求すれば大きな共感を獲得できます。
Solara & Coは、日越双方に拠点と人的ネットワークを持ち、ベトナムの消費財・小売・サービス分野への参入検討から、Z世代を含む消費者の市場調査、M&A・合弁によるパートナー獲得、買収前の信用調査・デューデリジェンスまでを一貫して支援します。世代交代という大きな潮流を捉えつつ、足元の実務とリスクを丁寧に見極める——その両立こそが、ベトナム消費市場で成果を上げる近道だと考えています。


