「やりたい事業」が「やれる事業」とは限らない
ベトナム進出を検討する日本企業が、事業計画を固めた後で直面しがちな壁が、許認可です。「日本で問題なくできている事業だから、ベトナムでもできるはず」という前提は危険です。ベトナムでは、外国投資家が参入できる分野・出資比率・事業条件が、業種ごとに細かく定められており、「やりたい事業」が必ずしも「やれる事業」ではありません。
ベトナムの投資受け入れの枠組みは、大きく分けて、(1) 外資が自由に参入できる分野、(2) 一定の条件を満たせば参入できる条件付き投資分野(conditional sectors)、(3) 外資の参入が認められない分野、という構造になっています。とりわけ重要なのが条件付き投資分野で、ここでは外資出資比率の上限、最低資本金、業種ごとの専門ライセンス(sub-license)の取得などが条件として課されます。
本稿では、ベトナムの許認可と条件付き投資分野の実務を、参入可否の判断、必要なライセンスの体系、取得プロセスと所要期間まで、進出計画の入口で押さえるべき視点として整理します。外資規制の全体像はベトナムの外資規制と投資条件付き分野もあわせて参照してください。
投資分野の3つの区分を理解する
自由化分野・条件付き分野・禁止分野
ベトナムの投資法(Law on Investment)とWTO約束は、外国投資家の参入分野を区分しています。製造業の多くは比較的自由に参入できる一方、流通・物流・教育・金融・不動産・運輸・広告・情報通信などは、条件付きまたは制限の対象になりやすい分野です。自社の事業がどの区分に該当するかを、進出計画の最初に確認することが鉄則です。
WTO約束と国内法の関係
ベトナムの外資参入条件は、WTO加盟時の約束(サービス分野の市場アクセス・内国民待遇の留保)と、国内法・各種FTAが重層的に作用して決まります。WTO約束で外資参入が明記されていない分野は、当局の裁量に委ねられる部分が大きく、参入可否が一義的に決まらないことがあります。CPTPPやEVFTAといった新しい協定は、WTO約束より踏み込んだ自由化を含むこともあり、どの協定を根拠に参入を主張できるかが実務上のポイントになります。
主な条件付き・制限分野の例
外資にとって条件や制限が課されやすい代表的な分野には、流通・小売(小売拠点の出店に経済需要テストが関わる)、物流・運輸、広告、教育・訓練、金融・証券・保険、不動産事業、情報通信・コンテンツ、医療、人材派遣などがあります。逆に、製造業の多くは比較的参入しやすい分野です。自社事業がサービス系か製造系か、消費者向けか事業者向けかによって、直面する条件の重さが大きく変わります。
条件付き投資分野で課される条件
条件付き投資分野では、複数の種類の条件が組み合わさって課されます。

外資出資比率の上限
業種によっては、外資の出資比率に上限が設けられています。100%出資ができず、現地パートナーとの合弁が事実上の前提になる分野もあります。出資比率は経営の主導権に直結するため、参入スキームを左右します。合弁の設計はベトナムJVパートナー選定の実務を参照してください。
専門ライセンス(サブライセンス)
投資登録証明書(IRC)・企業登録証明書(ERC)という基本的な設立許可に加えて、業種ごとの専門ライセンス(sub-license)が必要になる分野があります。流通・小売、物流、教育、飲食、医療、建設、人材派遣などが典型です。基本の設立が済んでも、専門ライセンスが下りなければ実際の営業はできません。この「設立はできても営業できない」というギャップは、日本企業が最も陥りやすい落とし穴の一つです。たとえば小売業では商業活動ライセンスや小売拠点の設立許可、飲食業では食品衛生関連の許可、教育業では運営許可というように、事業ごとに固有の許可が積み重なります。スケジュールを引く際は、設立完了ではなく専門ライセンス取得完了を「営業開始可能日」と捉えるべきです。
最低資本金・人的要件・施設要件
一部の分野では、最低資本金、有資格者の配置、施設・設備の基準といった要件が課されます。これらを満たさないと許認可が下りないため、事業計画の段階で織り込む必要があります。たとえば一定の業種では法定の最低資本金が定められ、登録した資本金は出資の払い込みスケジュールにも縛られます。資本金は「多ければ良い」のではなく、規制要件と事業計画・送金計画の整合の中で適正水準を設計することが重要です。
投資家・適格性に関する条件
分野によっては、投資家自身の実績・財務基盤・関連分野での経験が問われることがあります。また、土地や立地に関する条件(特定の用途地域・工業団地に限る等)が付くこともあり、事業内容だけでなく「誰が・どこで」行うかが許認可の可否に影響します。これらの条件は、進出計画の前提として早期に把握しておく必要があります。
許認可取得のプロセスと所要期間
基本の流れ:IRC → ERC → サブライセンス
外資の現地法人設立は、おおむね投資登録証明書(IRC)の取得、企業登録証明書(ERC)の取得、そして必要に応じた専門ライセンスの取得、という順で進みます。設立そのものの流れはベトナム現地法人設立の実務で詳述しています。
段階 | 内容 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|
事前確認 | 参入可否・条件の確認 | 数週間 |
IRC取得 | 投資登録証明書 | 約1〜2か月 |
ERC取得 | 企業登録証明書 | 約1〜2週間 |
専門ライセンス | 業種別の営業許可 | 業種により数週間〜数か月 |
各種登録 | 税・印章・口座等 | 数週間 |
条件付き分野は時間が読みにくい
条件付き投資分野では、当局の審査・追加照会・書類補正により、所要期間が大きく振れます。日本の感覚で「申請すればすぐ下りる」と見積もると、事業開始のスケジュールが狂います。とくに専門ライセンスは、要件の充足を証明する書類の準備に時間がかかります。日本側で用意する書類には、公証・領事認証・ベトナム語への正式翻訳が必要なものがあり、この準備だけで数週間を要することも珍しくありません。スケジュールには、こうした書類準備の時間を含めた現実的なバッファを織り込むことが重要です。
進出計画の入口で確認すべきこと
事業範囲(business lines)の設計
ベトナムでは、登録した事業範囲(business lines)の枠内でしか事業を行えません。将来の事業拡張を見据えて、必要な事業範囲を過不足なく登録することが重要です。後から事業範囲を追加するには、変更手続きと、場合によっては追加のライセンスが必要になります。一方で、不要に広い事業範囲を登録すると、条件付き分野が含まれて手続きが重くなることもあるため、事業計画に即した過不足のない設計が求められます。
スキームの選択
参入条件(出資比率上限・サブライセンス)によっては、100%子会社、合弁、あるいは現地企業の買収(M&A)といったスキームの選択が変わります。許認可上の制約と事業目的の両面から、最適な進出形態を設計します。たとえば、外資単独での参入が難しい分野では、必要な許認可をすでに保有する現地企業を買収することで、許認可取得の時間を短縮できる場合があります。逆に、ゼロから設立して自社の方針で運営することを優先するなら、時間をかけてでも自前で許認可を取得する道を選ぶことになります。許認可は、進出形態そのものの意思決定を左右する要素です。進出形態の比較はベトナム進出形態の比較を参照してください。
規制変更への目配り
ベトナムの投資・許認可関連の法令は改正が頻繁で、参入条件や手続きが変わることがあります。進出時点で適用される最新の規則を確認し、施行間近の改正にも目を配る必要があります。過去の事例や古い情報をそのまま当てはめると、すでに条件が変わっていた、ということが起こり得ます。
当局との対話と実務運用
ベトナムでは、法令の文言だけでなく、担当当局の実務運用や解釈が結果を左右することがあります。同じ規定でも、地域や担当部署によって運用にばらつきが生じることがあるため、申請前に当局と事前相談(プレコンサルテーション)を行い、求められる書類や条件をすり合わせておくことが、手戻りを減らす実務的な工夫です。現地の事情に通じたアドバイザーを通じて、文書化されていない運用実態を把握することが、スムーズな取得につながります。
どこで許認可はつまずくのか
許認可が原因で進出が遅延・頓挫する典型的なパターンは、特定の論点に集中します。

最大の要因は条件付き分野の見落とし(参入可否・条件の確認不足)で、次いで専門ライセンスの取得遅延、事業範囲の設計ミス、そして規制変更の影響が続きます。いずれも、進出計画の入口で許認可を精査していれば回避・低減できるものです。「設立できたのに営業できない」という事態は、専門ライセンスの見落としから生まれます。
Solara & Coの許認可・条件付き分野の支援
ベトナム進出は、「やりたい事業」が「やれる事業」かを、許認可の観点から入口で確認することから始まります。投資分野の区分を把握し、条件付き分野で課される出資比率上限・専門ライセンス・各種要件を見極め、それに合わせて進出スキームと事業範囲を設計する——この一連の確認を進出計画の最初に行うことが、後の遅延と手戻りを防ぎます。
Solara & Coは、日越双方のネットワークと現地の規制知見を活かし、参入可否・条件の事前確認から、進出スキームの設計、IRC・ERC・専門ライセンスの取得支援、事業範囲の設計、そして規制変更への対応までを一貫して支援します。「設立はできたが営業できない」「想定外の合弁を求められた」という事態を避けるために、まずは自社事業の参入条件を一緒に確認する一歩から、ご支援します。



