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ベトナムの契約・紛争解決:VIAC仲裁と裁判の実務

ベトナムの契約・紛争解決:VIAC仲裁と裁判の実務

ベトナムの契約・紛争解決は「事前設計」で決まる

ベトナムでの取引やM&A、合弁が拡大するにつれ、契約上の紛争にどう備えるかが日系企業の重要な経営課題になっています。ベトナムの法制度は近年急速に整備が進みましたが、裁判の運用や判決の執行には日本と異なる実務があり、「いざ揉めてから考える」では手遅れになりがちです。紛争解決の成否は、契約段階で準拠法・紛争解決条項をどう設計したかで大きく左右されます。

本稿では、ベトナムの契約法制の基礎、紛争解決の四つの手段(交渉・調停・仲裁・訴訟)の特徴、とりわけ国際取引で主流となるVIAC仲裁の実務、そして外国仲裁判断・判決の執行という観点から、日系企業が押さえるべき論点を整理します。

ベトナムの契約法制の基礎

ベトナムの契約は、一般法である2015年民法典(Civil Code 2015)と、商行為を規律する2005年商法(Commercial Law 2005)を基礎に成立します。当事者は契約自由の原則のもと、準拠法・契約条件・紛争解決方法を相当程度自由に定められますが、強行法規(労働・土地・競争・消費者保護など)に反する条項は無効となります。

準拠法の選択と限界

国際的な商取引では、当事者が外国法を準拠法に選ぶことが認められます。ただし、ベトナム国内に所在する不動産(土地使用権を含む)に関する事項や、ベトナムの公序良俗・強行法規に関わる部分には、外国法を選んでもベトナム法が優先的に適用される点に注意が必要です。準拠法条項は、紛争解決地・言語条項とセットで設計すべきです。

契約書面と言語の実務

ベトナム法上、多くの契約は口頭でも成立しますが、不動産・一定の保証・登記を要する取引などは書面が要件です。実務では、ベトナム語と外国語(日本語・英語)の二言語契約とし、齟齬が生じた場合にどちらの言語を優先するかを明記しておくことが、後の解釈紛争を防ぎます。

紛争解決の四つの手段

ベトナムの商事紛争を解決する手段は、大きく交渉・調停・仲裁・訴訟の四つに整理できます。コスト・スピード・専門性・執行力・秘密保持のバランスで、案件に応じて選びます。

ベトナムの商事紛争解決:4手段の位置づけ
ベトナムの商事紛争解決:4手段の位置づけ

交渉と調停(ADR)

最も低コストで関係を保ちやすいのが、当事者間の交渉です。これがまとまらない場合、第三者の調停人が和解を仲介する商事調停(Decree 22/2017/ND-CPが商事調停を制度化)があります。調停は柔軟かつ秘密保持に優れますが、成立した和解には強制執行力を持たせるための裁判所の承認手続きが別途必要になる点を理解しておく必要があります。

仲裁

仲裁は、当事者が選んだ仲裁機関・仲裁人が、非公開の手続きで終局的な判断(仲裁判断)を下す制度です。専門性・秘密保持・国際的な執行力の点で、国際商取引の主流となっています。ベトナムでは2010年商事仲裁法(Law on Commercial Arbitration 2010)が根拠法で、後述するVIACが代表的な機関です。

訴訟

人民裁判所による訴訟は、公的な強制力を持つ一方、手続きが公開で、言語はベトナム語、審理に時間を要し、外国企業にとっては予見可能性に不安が残る場面もあります。少額・国内取引や、相手方に仲裁合意がない場合の選択肢となります。

VIAC仲裁の実務

国際商取引でベトナムの当事者と紛争解決を設計する際、実務上の第一選択となるのがベトナム国際仲裁センター(VIAC:Vietnam International Arbitration Centre)です。

VIACが選ばれる理由

VIACはベトナム最大の商事仲裁機関で、扱う案件数・国際性ともに突出しています。手続きはベトナム語・英語など当事者の合意した言語で行え、仲裁人も国内外から選任できます。仲裁地をベトナム国内とすることで、後述の執行において国内仲裁判断として扱われ、外国仲裁判断より執行のハードルが低くなる利点があります。M&AのSPA(株式譲渡契約)でも、VIAC仲裁条項は標準的な選択肢の一つです。詳細はベトナムM&AのSPAの解説も参照してください。

仲裁条項の設計

仲裁の実効性は、契約の仲裁条項の質で決まります。仲裁機関(VIAC等)、仲裁地、仲裁言語、仲裁人の数(1名か3名か)、準拠手続規則、準拠実体法を明確に特定することが重要です。条項が曖昧だと、仲裁合意の有効性自体が争われ、入口で時間を浪費します。M&Aや合弁では、設立段階の契約・定款に紛争解決条項を組み込んでおくことが、ベトナムM&Aの全体プロセスを通じたリスク管理の起点になります。

仲裁判断の取消リスク

仲裁判断は終局的ですが、ベトナムの裁判所が公序良俗違反や手続違背を理由に取り消す事例が一定数あった点には留意が必要です。近年は最高人民法院の指針で取消の運用は限定的になっていますが、手続の適正(due process)を丁寧に踏むこと、ベトナムの強行法規との整合を確保することが、判断を守るうえで実務上重要です。

仲裁判断・判決の執行

紛争解決は「勝つ」だけでなく「回収する」までが本番です。執行段階の制度理解が欠かせません。

外国仲裁判断の承認・執行

ベトナムは1995年にニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)に加盟しており、シンガポール・香港・日本などで下された外国仲裁判断は、ベトナムの裁判所の承認手続きを経て執行できます。ただし、公序良俗違反などの拒否事由を理由に承認が拒まれる事例もあったため、執行可能性まで見据えた仲裁地・準拠法の設計が重要です。一般に、ベトナム国内のVIAC仲裁の方が外国仲裁判断より執行が円滑とされます。

外国判決の執行

外国裁判所の判決は、相互保証や二国間条約がある場合に承認・執行され得ますが、ベトナムと日本の間には判決の相互執行を直接保証する条約がないのが現状です。そのため、相手方の資産がベトナムにある取引では、外国判決による回収可能性は不確実で、この点でも仲裁(とりわけVIAC仲裁)が実務的に優位とされます。

契約類型ごとの紛争予防の勘所

紛争の芽は契約類型ごとに異なります。日系企業が関わる主要な契約について、設計段階で押さえるべき点を整理します。

売買・代理店・販売店契約

物品の売買や、ベトナム市場での販売を担う代理店・販売店契約では、品質基準・検収条件・支払条件・解除事由を具体的に定めることが、後の紛争を防ぎます。とりわけ代理店・販売店契約は、契約終了時の補償や在庫の取扱いをめぐって争いになりやすく、終了条項を曖昧にしたまま関係を始めると、撤退・切り替えの局面で足かせになります。準拠法と紛争解決をVIAC仲裁に寄せつつ、終了・補償のルールを明文化しておくのが安全です。

合弁・株主間契約

合弁では、出資比率・経営権・配当方針・デッドロック解消・持分譲渡制限・競業避止を株主間契約と定款に落とし込みます。意見が対立した際にどう決着させるか(拒否権の範囲、買取請求、第三者売却)を事前に設計しておかないと、関係が悪化したときに会社が機能停止に陥ります。紛争解決条項は、株主間契約と定款で整合させ、矛盾が生じないようにすることが重要です。これは会社形態とガバナンスの設計そのものと不可分です。

知的財産・ライセンス契約

技術供与・商標・ノウハウのライセンス契約では、許諾範囲・対価(ロイヤルティ)・秘密保持・契約終了後の権利関係を明確にします。ベトナムでは権利侵害の立証や差止めの実務にハードルがあるため、契約で予防線を張るとともに、権利登録を併用することが有効です。知財の保護全般は、ベトナムの知的財産権の保護も参照してください。

雇用・サービス委託契約

労務をめぐる紛争は件数が多く、解雇・残業・社会保険の取扱いが争点になりがちです。雇用契約や就業規則は労働法の強行規定に沿って整え、懲戒・解雇の手続要件を厳格に守ることが、不当解雇の主張を防ぎます。業務委託(サービス契約)の形をとっていても、実態が指揮命令を伴う雇用と判断されれば労働法が適用されるため、契約名称ではなく実態に即した設計が必要です。労務の論点は、ベトナムの労働法と一体で押さえておくと、紛争の芽を早期に摘めます。

紛争解決手段の比較表

主要な紛争解決手段を、コスト・スピード・秘密保持・執行力・適する場面で整理すると次のとおりです。

紛争解決手段別の想定リードタイムのイメージ
紛争解決手段別の想定リードタイムのイメージ

手段

コスト

スピード

秘密保持

執行力

適する場面

交渉

速い

なし

関係維持・初期対応

調停

低〜中

速い

要裁判所承認

柔軟な和解

VIAC仲裁

中〜高

国内で円滑

国際取引・M&A

訴訟

遅い

低(公開)

強い(国内)

仲裁合意なし・少額

日系企業が押さえるべき実務ポイント

第一に、紛争解決は契約段階の「設計問題」です。準拠法・紛争解決機関・仲裁地・言語を明確に定めた条項を、すべての重要契約(売買・代理店・合弁・SPA・ライセンス)に標準装備することが、最大の予防策になります。第二に、執行可能性まで逆算することです。日越間に判決の相互執行条約がない以上、回収を確実にするにはニューヨーク条約に支えられた仲裁、とりわけ国内執行が円滑なVIAC仲裁が有力な選択肢となります。第三に、紛争の芽は契約管理・証憑保全の段階で摘むことです。二言語契約の優先言語、署名権限、社印の管理を整え、争点化する前に手当てしておくことが重要です。

ベトナムの契約・紛争解決は、制度を「知っている」だけでなく、契約段階で「設計してある」かどうかが成否を分けます。Solara & Coは、取引・合弁・M&Aの契約設計から、紛争解決条項の最適化、VIAC仲裁・調停の実務対応、執行可能性の検討までを、日越双方の法務実務に通じたチームで一貫支援します。紛争が起きてからではなく、契約を結ぶその時から、御社のリスクを最小化する設計をご提案します。

FAQ

よくある質問

ベトナム企業との契約は仲裁と裁判のどちらにすべきですか?

国際取引やM&Aでは、一般に仲裁、とりわけベトナム国際仲裁センター(VIAC)の仲裁が実務上の第一選択です。理由は、手続きが非公開で専門性が高く、ベトナム語・英語など合意した言語で行え、ニューヨーク条約に支えられて国際的な執行力があるためです。訴訟は公開・ベトナム語・審理が長期化しがちで、仲裁合意がない場合や少額・国内取引の選択肢となります。

VIAC仲裁とは何ですか?なぜ選ばれるのですか?

VIAC(ベトナム国際仲裁センター)はベトナム最大の商事仲裁機関で、案件数・国際性ともに突出しています。仲裁地をベトナム国内とすると、判断が国内仲裁判断として扱われ、外国仲裁判断より執行のハードルが低くなる利点があります。仲裁機関・仲裁地・言語・仲裁人の数・準拠規則を明確に定めた仲裁条項を契約に置くことで、その実効性が確保されます。

日本の裁判所の判決はベトナムで執行できますか?

難しいのが実情です。外国判決の承認・執行には相互保証や二国間条約が必要ですが、ベトナムと日本の間には判決の相互執行を直接保証する条約がありません。そのため、相手方の資産がベトナムにある取引では、日本の判決による回収可能性は不確実です。これがベトナム企業との取引で、ニューヨーク条約に支えられた仲裁(とりわけVIAC仲裁)が優位とされる理由です。

外国の仲裁判断はベトナムで執行できますか?

可能です。ベトナムは1995年にニューヨーク条約に加盟しており、シンガポール・香港・日本などで下された外国仲裁判断は、ベトナムの裁判所の承認手続きを経て執行できます。ただし、公序良俗違反などの拒否事由を理由に承認が拒まれた事例もあったため、執行可能性まで見据えて仲裁地・準拠法を設計することが重要です。一般に国内のVIAC仲裁の方が執行は円滑です。

契約で紛争に備えるにはどの条項が重要ですか?

準拠法条項と紛争解決条項が核心です。紛争解決条項では、仲裁機関(VIAC等)、仲裁地、仲裁言語、仲裁人の数、準拠手続規則、準拠実体法を明確に特定します。曖昧だと仲裁合意の有効性自体が争われ入口で時間を浪費します。あわせて二言語契約の優先言語、署名権限、社印管理を整えておくことが、紛争を未然に防ぐ実務上の備えになります。

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