「働けるか」と「在留できるか」は別の手続 — 全体像から押さえる
日本企業がベトナムに駐在員や技術者を送り込む際、現地で適法に就労させるには、二つの異なる許可をそろえる必要があります。一つは「働く資格」を与える労働許可証(Giấy phép lao động/Work Permit、以下WP)、もう一つは「滞在する資格」を与えるビザまたは一時在留カード(thẻ tạm trú/Temporary Residence Card、以下TRC)です。WPがあっても在留資格がなければ滞在できず、ビザがあってもWPがなければ就労はできません。両者は別個の手続で、取得の順番にも意味があります。
制度の根拠は、外国人労働者の就労を定める政令Decree 152/2020と、その手続を一部簡素化した改正政令Decree 70/2023です。本稿では、需要の事前承認から書類準備、WP申請・発行、ビザ・TRC取得までの一連の流れを5つのステップに分け、標準所要日数・必要書類・更新・免除・罰則まで、駐在実務の目線で整理します。設立段階の論点はベトナム現地法人設立の実務、雇用後の労務全般はベトナム労働法の実務とあわせてご確認ください。
ステップ1:外国人労働需要の事前説明・承認
WP申請の前段として、まず「なぜ外国人を雇う必要があるのか」を当局に説明し、承認を得る手続があります。これを飛ばすとWP申請そのものが受理されません。
採用30日前までの需要報告
雇用主は、外国人を採用しようとする予定日の原則30日前までに、その職位について外国人労働力を使う必要性を、省人民委員会または委任を受けた労働傷病兵社会局(DOLISA)等へ報告し、承認(受入需要の認可)を取得します。ベトナム人で充足できない理由を、職務内容に即して具体的に示すことが求められます。
職位区分の確定
外国人が就ける職位は、管理職(マネージャー)、経営幹部(エグゼクティブ)、専門家(エキスパート)、技術者(テクニカルワーカー)の区分に整理されます。どの区分で申請するかによって、後の証明書類の要件が変わるため、入口で職位を正しく定義しておくことが重要です。たとえば同じ「エンジニア」でも、専門家として申請するか技術者として申請するかで、求められる学位や経験年数の証明が変わります。実態と乖離した職位で申請すると審査で否認され、やり直しになるため、職務記述書(JD)と整合させて区分を選ぶことが実務の要点です。
ステップ2:書類準備 — 認証・翻訳が最大のボトルネック
WP申請に必要な書類のうち、海外で発行されるものは認証と翻訳に時間がかかります。実務上、ここが全工程で最も読みにくい工程です。
区分ごとの証明要件
主な必要書類は、犯罪経歴証明(無犯罪証明書)、健康診断書、学位・職務経験を裏づける証明です。証明の中身は職位区分で異なり、専門家であれば大学以上の学位に加えて当該分野で原則3年以上の実務経験、技術者であれば一定の訓練歴に加えて3年以上の経験、といった水準が目安になります。職務経験は前職企業の証明書などで裏づけます。
領事認証とベトナム語公証翻訳
無犯罪証明・学位・職務経験証明など海外発行の書類は、本国での公証を経て領事認証(アポスティーヴ相当の認証)を受け、さらにベトナム語への公証翻訳を付す必要があります。健康診断書はベトナム国内の指定医療機関で受診すれば認証は不要です。本国側の発行・認証スケジュールと翻訳工程が重なるため、着任日から逆算して最優先で着手すべき工程です。

ステップ3・4:労働許可証の申請と発行
需要承認と書類がそろえば、いよいよWP本体の申請に進みます。
DOLISAへの申請と標準審査日数
WPはDOLISAまたは権限を委任された機関へ申請します。書類が整っていれば、審査は標準で5〜10営業日程度が一つの目安です。記載事項の不備や認証書類の体裁不良があると差し戻され、その都度カウントがやり直しになるため、提出前の整合確認が肝心です。
発行されるWPの効力 — 最長2年
発行されるWPの有効期間は最長2年です。WPには就労できる職位・勤務地・雇用主が特定して記載され、その範囲を超える就労(別法人での勤務や勤務地の変更など)は原則として新たな手続を要します。グループ内での配置転換を予定する場合は、この特定性を前提に設計する必要があります。

ステップ5:ビザ・一時在留カード(TRC)の取得
WPは「働く資格」にすぎず、滞在の資格は別に取得します。WPを根拠に、就労ビザまたはTRCへと進みます。
LDビザとTRCの使い分け
WPを取得した外国人は、就労を目的とするLD(労働)ビザ、またはより安定的な一時在留カード(TRC)を取得できます。TRCはWPの有効期間に準じて最長2年で発給され、有効期間中はビザなしで出入国できるため、長期駐在では実務上TRCが選ばれます。なお、短期の商用目的で就労を伴わない場合はDN(商用)ビザを用いますが、これはWPを前提とする在留資格とは性格が異なります。
ビザ・WP・TRCの違い
それぞれの位置づけと有効期間、根拠を整理すると次のとおりです。
区分 | 主な対象・目的 | 有効期間の目安 | 根拠・前提 |
|---|---|---|---|
労働許可証(WP) | 外国人が就労する資格 | 最長2年 | Decree 152/2020・70/2023 |
一時在留カード(TRC) | WP保有者の長期在留 | WPに準じ最長2年 | WPまたは免除確認が前提 |
LD(労働)ビザ | 就労目的の在留 | 最長2年 | WPまたは免除確認が前提 |
DN(商用)ビザ | 商用・出張(就労なし) | 最長12カ月 | 招へい企業・就労を伴わない |
労働許可証の更新と期限管理
WPは無期限に更新できるわけではありません。期限管理を誤ると、就労資格そのものが失効します。
延長は原則1回まで
Decree 70/2023により、WPの延長(更新)は原則1回に限られ、延長後の有効期間も最長2年です。延長分を使い切った後も継続して就労させる場合は、更新ではなく新規にWPを取得し直す必要があります。延長は有効期間が満了する前の所定期間内に申請する必要があり、失効後の遡及はできません。
期限の一元管理
WP・TRC・ビザは有効期間が連動するため、駐在員ごとに満了日を一覧で管理し、更新・再取得の準備を逆算で始める運用が欠かせません。給与・社会保険の手続とも連動するため、ベトナムの給与計算と社会保険の実務とあわせて管理体制を組むのが現実的です。
労働許可証の免除(WP exemption)と免除確認
一定の要件に当てはまる外国人はWPが免除されますが、「免除=手続不要」ではない点に注意が必要です。
主な免除事由
代表的な免除事由には、滞在が30日未満かつ年間で合計3回以内の短期就労、WTOで約束した11業種に係る企業内異動(intra-corporate transferee)の専門家・管理職、一定額以上を出資する有限責任会社の出資者や株式会社の法定代表者、などがあります。会社の経営に関与する駐在員の派遣形態によって、該当の可否が分かれます。
免除でも「免除確認」が必要
免除に該当する場合でも、多くのケースで事前にDOLISA等から「労働許可証免除確認書」を取得する必要があります。確認書を取らずに就労させると、形式上は無許可就労と扱われるおそれがあります。免除確認書は在留資格(ビザ・TRC)の取得根拠にもなるため、免除であっても手続は省略できないと考えるべきです。また、当初は免除に該当していても、滞在日数や出資比率、職務の変化によって途中から免除要件を外れる場合があります。免除を前提に駐在させる場合でも、要件充足の状態を継続的にモニタリングし、外れた時点で速やかにWP取得へ切り替える備えが必要です。
罰則とコンプライアンスリスク
WPやビザ・TRCを欠いた就労は、本人と企業の双方にリスクが及びます。
本人の退去・企業の罰金
無許可で就労した外国人は、強制退去や再入国制限の対象となり得ます。雇用主側も、無許可の外国人を就労させた場合には行政罰(罰金)が科され、悪質・反復のケースでは事業上の許認可や対外的な信用にも影響します。とりわけ駐在員の着任が先行し、WPやTRCの発給を待たずに実務に従事させてしまう「先行就労」は、現場で起こりがちな典型的リスクです。形式的には在留しているだけでも、実態として労務を提供していれば無許可就労と評価されかねません。駐在員の入れ替えやプロジェクト単位の短期就労が増えるほど、期限切れや手続漏れのリスクは高まるため、ベトナムの人材採用と定着や駐在員の個人所得税(PIT)の論点とあわせて、就労資格を一体で管理することが重要です。
Solara & Coの一貫支援 — 着任日から逆算して資格を整える
ベトナムの就労資格は、需要承認 → 書類の認証・翻訳 → WP申請・発行 → ビザ・TRC取得という連続した工程で成り立ち、さらに更新は原則1回、免除でも確認手続が要るなど、つまずきやすい論点が随所にあります。実務で遅延を生むのは審査そのものより、本国書類の領事認証・公証翻訳と、職位区分に応じた経験証明の組み立てです。
Solara & Coは、日越双方に拠点と人的ネットワークを持ち、職位区分の設計と需要報告、本国書類の認証・翻訳の段取り、DOLISAへのWP申請とビザ・TRC取得、さらに更新・再取得の期限管理までを一貫して支援します。駐在員のオフィス立地戦略や着任スケジュールから逆算し、「働ける」と「在留できる」を切れ目なくつなぐ立ち上げをご一緒します。



